物事がスローモーションに見える現象は果たして応用できるのか?:人の視覚と脳の科学

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交通事故なんかにあったとき、「周りがスローモーションに見えた」なんて話があります。

 

こいつはタキサイア現象と呼ばれる視覚的な現象で、科学的にも研究が行われてます。

 

ピンチの時に周りがスローモーションに見えたらスゲェなぁという感覚はわかりますが、

 

果たしてこれがスポーツや武道武術にどこまで応用できるのかってのが気になるところです。

 

そんなわけで人間の脳を騙す眼についての科学的なお話をしてみたいと思います。

目次     

本当にスローモーションになるのか?
まばたきをする間だけ時間は止まる
理性か本能か

本当にスローモーションになるのか?

そもそも人間の視覚ってのは超だまされやすいのです。

 

騙し絵なんかがいい例で、単純なものでも人間の脳みそは簡単に騙されます。

 

危機に直面した時に周囲がスローモーションに見えるタキサイア現象はギリシャ語で『精神的な速度』っていう意味があります。

 

「危険を感じた時に周囲がスローモーションになるってホンマかいな?」

 

と疑問に思った神経科学者デイヴィット・M・イーグルマンが、

 

下に防護ネットが張ってある50メートルの鉄塔から学生を突き落とすという参加したくないけど端から見る分には面白い実験を行いました。(1)

 

参加者には最初に他の人が鉄塔から落ちるのを見てもらって落下時間をシュミレーションしてもらい、

 

鉄塔から落とされた後にもう今度は自分の感覚でシュミレーションしてもらいました。

 

通常の落下時間が2.49秒なのに対して、体感的な落下時間はおよそ36%増加しており、

 

ほとんどの参加者が「スローモーションになった!」と証言しました。

 

ここで単純にスローモーションになる!スゲェ!とならないのが科学の面白いとこです。

 

「それホンマかいな?」ってことで、

 

落とす人の腕に通常なら読み取れないめっちゃ早いスピードで数字が表示されるデバイスをつけさせました。

 

本当にスローモーションになってるなら、数字が読み取れるだろ?ってことですね。

 

その結果、落下中にその数字を読み取ることはできませんでした。

 

地上で普通に数字を読み取ろうとした場合と成績はほぼ同じという結果でした。

 

ということで、実際にスローモーションになってるというよりは、

 

後になってスローモーションになったと思い込んでるって考えた方がいいんじゃねぇの?

 

みたいなのが結論です。

 

まあ実験参加者も21人くらいだし、そのうち1人は落下中に目を開けることができずに除外されてるし、そこまでしっかりした実験ができたってわけじゃありません。

 

ただ現実でもスローモーションになったと証言してるのは、助かった人だけです。

 

スローモーションになったから助かったといえるかどうかは微妙です。

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スローモーション中にとっさに頭を守って助かったという話があったとして、

 

スローモーションじゃなくてもとっさに頭は守るのではないか?ということも言えちゃいますし。

 

因果関係を考えると、スローモーションに見えること自体はそんな重要なことじゃなくね?と思います。

まばたきをする間だけ体感時間は止まる

視覚による騙しについてさらに補足すると、

 

ヘブライ大学の研究によると、人の脳は瞬きをしてる間、自分の時間感覚を停止させてるってことがわかってます。(2)

 

何を言ってるのかわからねーと思いますが、超スピードとか催眠術とかそんなチャチなもんではございません。もっと恐ろしいものの片鱗・・・

 

要するに、いつもまばたきってしてるけど、普段は自分がまばたきしたことがわからないのってなんでなの?

 

っていう問題に対する答えは、

 

目が閉じられた間は脳が勝手に時間を止めて処理してるからってことなのです。

 

つまりまばたきで目が閉じてる間は時間がとまってるから自覚できないのです。

 

ジョジョを知ってる人にだけわかりやすく説明すると体感的にはザ・ワールドというよりはキング・クリムゾンみたいな感じですかね。

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ちなみにこの他にもクロノスタシスという中学生にウケそうな名前の現象もあります。(3)

 

これは動いてるものが止まった瞬間を目撃すると、止まっている時間が長く感じるというもので、

 

時計の秒針なんかを見てる時に起こる現象として知られてます。

 

こっちも簡単に説明すると、動いてるものが止まった瞬間を目撃したとき、脳が動いていたことを無視してしまうことによって、

 

動いていたという事実が消えるので、結果的に止まってる時間が長いように錯覚しちゃうというものです。

 

クソややこしいですね。

 

でもこういう脳の処理が行われてるおかげで、急速に視線を動かしても我々の見ている世界は安定しているのです。

 

ただ人間の視覚的な時間感覚っていうのは、けっこういい加減にできてるってことです。

理性か本能か

タキサイア現象の話に戻りますが、なんでこんなことが起こるのかっていうと、

人類が進化の過程で獲得した本能的な反応から来ていると言われています。

 

闘争・逃走反応(ファイト・オア・フライト反応)という多くの動物が持っている本能的な反応がこれにあたります。(4)

 

かつてまだ文明ができる前の時代、人は何らかの危険を感じたら、戦うか逃げるかを瞬時に判断して動く必要がありました。

 

肉食獣とかがいるかも知れないのに悠長に考えてる暇なんてありゃしないので、

 

危機を察知したら一気に血圧を上げてアドレナリンをバンバン出して瞬発力にすべてを集中するわけです。

 

こういう時代が何万年も続いた結果、人間の本能には闘争逃走反応が刻み込まれちゃってるんですが、

 

これが現代では誤作動を起こしまくってるという話があります。

 

これが出てきてしまうと、理性的な行動ができないわ、ストレスがかかるわで悪循環を生むのだそうです。

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こいつは色んな研究で言及されてまして、貧困層の子供の授業態度が悪い原因とか、

 

反射的に殴っちゃったとかカッとなっちゃうっていうのは闘争逃走反応が原因だと言われてます。

 

さらにタチの悪いことに、闘争逃走反応が出てしまった後で人は合理的な説明をしようとするってことがわかってます。

 

これはスローモーションになったから助かったみたいな理屈と同じで、

 

何らかの原因があったからキレたみたいな後付けの説明をしちゃうのです。

 

武道武術ってのはこういう本能的な反応を乗り越えるためにあると、個人的には思ってます。

 

まあ、中には本能全開で戦うってのもあるんでしょうけど。

 

自分をきちんとコントロールするって意味では闘争逃走反応につかまらないようにやってく方がいいんじゃないかと思います。

 

一般的な対策としては瞑想をするとか、SNSやらアプリの通知を切って集中する時間をつくるとかがあるんですが、

 

つまるところは自分の肉体に起こってる変化に敏感になっておくとか、変化をコントロールできるようになっとかないといけないわけで、

 

こいつは武道武術の稽古の得意分野なはずです。

 

というワケで個人的にはタキサイア現象は武道武術とは対極であり、

 

スポーツなんかでもそれほどアテにしていいものではないかなぁという感じでございます。

関連記事

武術の達人はなぜ瞑想をするのか?瞑想がもたらす効果

参考文献

(1)恐ろしい出来事の間、本当に時間は遅くなっているのか?(英語論文)

(2)瞬きであなたの脳は時を止める(英語記事)

(3)空間と時間による幻想的な知覚は、クロスサッケードの知覚的連続性が維持されているから(英語論文)

(4)戦うか逃げるか反応(Wikipedia)

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