色んな研究手法を参考にして武道の稽古を考えてみる

実験手法

 

科学の研究方法というのは、最近では医療だけでなく教育や経済といった分野でも活用されはじめてます。

だったら武道武術でも使えるんじゃねと思っております。

最近読んでいる本にそういった研究手法についてのめっちゃわかりやすい説明があったので、武道の稽古が科学的にはどの程度のレベルのものなのかも考えつつ、

今回は以前に紹介したランダム比較化試験以外の研究手法について紹介してみたいと思います。

     目次     

実験手法ランキング

最下位は専門家の意見
       専門家の意見
       事例の集積
       観察研究
       準実験



根拠に基づく実践

実験手法ランキング

今回は原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス』という本を参考にさせてもらってます。

わたくしはまったくもって心理職ではないのですが、文献の活用方法などについて丁寧に書かれている本なので、個人的にはかなり参考になりました。

その本の中にエビデンスヒエラルキーとして、根拠(エビデンス)として質の高い実験のランキングみたいなものが載ってました。

1.RCTの統計的レビュー
2.個々のRCT
3.準実験
4.観察研究
5.事例集積研究
6.専門家の意見

原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス』より抜粋(1)

 

RCTというのはランダム比較化試験Randomized Controlled Trial)のことです。

統計的レビューはメタ分析、メタアナリシスとも呼ばれています。

1位と2位に関しては過去の記事を参照してください。

今回は3位以下の実験についての解説になります。

専門家の意見は残念ながら最下位

6位 専門家の意見

栄えある?最下位なのが我らが武道などではかなりの地位を占める専門家の意見です。

本の中でも『経験に基づいた主観的な意見は質としては最も低い。』とのこと。

なんで専門家の意見が最下位なのかというと、専門家の意見ってのは色々な思い込み、『バイアス』がかかってしまっていることが多いからです。

自分に都合のいい情報ばかりを集めてしまう確証バイアス、自分の記憶をゆがめてしまう記憶バイアスなどなど、

いわゆる思い込みで話している可能性を否定できないのです。

専門家の意見というのは、意見だけでは何の証拠もないのと同じってことですね。

専門家といっても専門外のことまでわかってるわけでもないですし、勉強していない分野での意見は一般人レベルなのですが、

専門家という肩書があるだけで信用されちゃうのです。

交渉なんかの技術を紹介している『影響力の武器』でも【権威】は人を動かすうえで多くの面で作用していることが確認されています。(2)

専門家のお墨付きで紹介されているものや、高級なブランド品や車というのはそれだけで人から信用される効果があるので、逆に詐欺などで活用されるわけです。

専門家とか偉い人が言ってるから正しいってのは、科学的にはあんまりアテになりません。

5位 事例集積研究

事例集積研究というのも文字通り事例を集めた研究です。

『心理職〜』でも『エビデンスとしては非常に貧弱。事例をいくら集めてもデータではない。』とバッサリ。

事例というのは沢山転がっているのでこの辺りは心して対処していきたいものです。

といっても、ビジネスなんかではこうした事例研究はケーススタディとしてけっこう行われています。

ビジネスでの「事例」は沢山ありますからね。その他にも特定の事故などもひとつの事例です。

なのでまったく参考にならないというわけではなく、あくまで何かの決定的な証拠とするにはレベルが低いって感じだと思います。

こうした事例は共通点なんかを見つけると説得力を持たせることはできます。

ですが、人の生き死にを扱う医療や教育の現場では事例を根拠にするのは危険ってことなんでしょう。

武道武術は事例だけなら、ウソなのかホントなのかたまたまなのかわからない話が沢山ありますので、

場合によってはケーススタディとして使える場合はあるでしょうけど、この辺は使い方次第という気もしますが、質という意味ではまだまだレベルが低いみたいです。

4位 観察研究

観察研究は文字通り人体や物事を長年に渡って観察をして判明したことへの研究です。

睡眠時間と死亡率の関係なんかは何十年もデータを取ることで判明した事実です。

タバコと動脈硬化の関係なども観察研究によって判明しました。倫理的に人を実験台にできないような研究はこうした観察がメインになります。

ですが目的ありきでデータの因果関係をつなげてしまう危険性もあるので、質としては若干低くなるようです。

とは言え観察研究はランダム比較化試験ではできない方法が無数に存在しています。

中でも最も有名なのがフラミンガム研究です。

アメリカのフラミンガムという町の3万人ほどの住人の健康状態を1975年から3世代以上に渡って観察するというとんでもない規模の観察研究です。

この研究によって高血圧の問題点や、コレステロール値など現代では良く聞く健康の問題が明らかになってます。

しかし、同時にあくまでもフラミンガムというひとつの町の中の出来事なので、あらゆる物事に通用するわけではないという指摘もあります。

逆にこんだけ規模がでかくてやっと、少しは信用できるという程度のデータにしかならないってことです。

ただ色んなデータを集めていく姿勢ってのは大事なんだなと思います。

武道でも日頃の稽古を観察しながらデータを集めておくのは大事なことでしょうね。

3位 準実験

準実験は単なる前後の比較だけだったり、ランダムではなくなんらかの理由で行われたグループわけをして行われた実験のことです。

結局ランダムでない場合は、様々なバイアスの影響を受けてしまうのでランダム比較化試験ほど優秀ではないようです。

実験の結果をいいように見せたくて誇張しちゃったり、参加者が積極的になりすぎておかしな実験になっちゃったり、

実験というのは人間が関わってる以上、きちんとコントロールしないと色んな介入が起こってしまうのです。

こうして考えてみると、ランダムにグループを分けるということは、自分の先入観などを入れないという公平性の面ではメッチャ大事になってくるみたいです。

ちなみにアダム・グラントの『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代 』ではこのバイアスを逆手に取ったような心理学者タブ・イーデンの研究が紹介されています。(3)

イーデンはイスラエル国防軍の新人兵士の中からどの人物が成績優秀になるかを見つける方法を発見したとして、実際に兵士を指名しました。

その結果、指名された兵士は実際に成績優秀者になりました。

一体何がポイントだったのか?

実はイーデンは兵士をテキトーに指名しただけでした。変わったの教師の方だったのです。

兵士が成績優秀者になると指摘された場合、その上官は指名された兵士がミスをしてもダメだからミスをしたのではないと思うようになり、

より丁寧な指導をしたため、結果的にその兵士は目をかけられて優秀になったのだとか。

これは小学生を使った研究などでも同じ結果が出ており、何かを人に教える人が贔屓してる人はマジで優秀になっちゃうようです。

教える相手にちゃんと目をかけてあげると、その人はちゃんと成長してくれるんだから、これは誰かに何かを教える時には肝に銘じときたい実験っすね。

身長の高い人など、目立つ特徴のある人はこうした目で見られやすいので出世しやすいなんて話もあります。

このようにランダムではない実験というのは、ちょっと見る目を変えてしまうだけで不確定な要素が入り込んでしまうので完全には信頼されないようです。

といっても実験としてはこのスタイルある意味定番なので、あくまでRCTと比べると質としては劣る、という感じではあります。

根拠に基づく実践

エビデンス・ベイスト・プラクティスの逆はプラクティス・ベイスト・エビデンスというそうです。

意味は実践に基づく根拠です。

だいたい人間ってのは自分の経験から物事を判断します。

でもそれがちょっとでもズレちゃったら、ズレっぱなしになっちゃうのです。

武道武術において実践ありきというところがありますが、ともすればズレた専門家の意見や事例の集積といったものになってしまいます。

これから武道武術がより発展していくためにはそれだけじゃダメなんだなと思います。

なので、将来的にもっと科学的なスタイルで稽古をしていけるように色々と考えていきたいところではあります。

今回参考にさせてもらった本『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス』は、心理職に対してエビデンス・ベイスト・プラクティス(根拠に基づく実践)を根付かせるために書かれた本です。

『根拠に基づく実践』とは、以下の三つの要素を相互に作用させることなのだそうです。

①エビデンス

先行研究(論文の検索)から質の高いものを吟味し、それを統合して、ある介入には効果があるのかに関して最新最善のエビデンスを得るということ。

②患者の価値観

得られたエビデンスを目の前の患者の症状、背景、価値観、この身などと照らし合わせて、適切に応用すること。

③臨床技能

人ひとりの患者の状態を把握したり、介入の利益とリスク、自分自身の臨床技術や経験を吟味したりする医療提供者側に求められる能力。

原田隆之著『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス』より抜粋

 

この概念は医療関係はもちろん教育などでも使われるようになってきているそうです。

こうした考え方は1990年頃からはじまったようで、それまでは民間療法みたいなよくわからない治療法も医師の好みによっては使われていたりして、

色々と問題が起こっていった結果できた概念のようです。

結局のところ、なんでもそうなんですがちゃんとした根拠って大事ってことですね。

武道武術の現状としては、まだまだ専門家の意見以上の根拠が少ないので、武道でも先人たちのやってきたことを大事にしつつ、

より適切な指導ができるようなスタイルを生み出していくのは大事っぽいです。

今後の稽古をよりよいものにしていくには、より多くのデータを集めていかないといけません。

個人的には、若い人の方がより多くの良い知識を得られるようになるってのはスゲー大事なことだと思います。

追い上げられる側としてはキツイものもあるかも知れないですが、いつもまでも昔の人の方が凄かったって言うのも違うかなと。

関連記事

形稽古を信頼性の高い実験にする方法を考えてみた

参考文献

(1)原田隆之『心理職のためのエビデンスベイストプラクティス』

(2)ロバート・チャルディーニ『影響力の武器[第三版]:なぜ、人は動かされるのか』

(3)アダム・グラント『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』 

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です