重心ってどこ?重心移動ってなに?重心を理解しない人を惑わすテクニック
これまで当ブログでは科学的な内容を紹介してきましたが、
新たな試みとして今回は非科学的な内容を紹介したいと思います。
最近、スポーツ・整体・武道武術などの様々な分野で『重心』という言葉を使った非常にユニークな解説方法が生み出されて使われています。
『重心』という言葉は非常に便利な言葉でして、正確に意味を把握できていない人は簡単にこの言葉を使うことで だまくらかすことが 説得することができてしまいます。
この、いわゆる重心系?の解説テクニックがなかなかエキセントリックなので明日からすぐ使えるテクニックとしてまとめてみました。
今回は科学的な常識を粉砕する騙しのテクニックとなります。
もちろんこれは『重心』という言葉に限った話ではないので、別の言葉で応用することも可能です。
目次
・重心とは無限の可能性を秘めた言葉
・魔法の言葉『重心移動』
・重心を応用したテクニック
・小賢しい奴への対処法
数の暴力で黙らせる
合成重心のことだとシラを切る
科学的な意味での重心ではないと主張する
追放する
重心を卒業する
・おわりに
重心とは無限の可能性を秘めた言葉
さて皆さんは『重心』についてどれだけのことを知っているでしょうか?
重心というのは正確には「物体の各部分に働く重力の合力が作用する点」のことです。
なんのこっちゃわかりませんよね?
ですが、これが逆に良いのです。なんの予備知識もなくこの説明が理解できる人は皆無だからこそ逆にどんなに本来の重心とかけ離れたことを言っても問題ないのです。
念のためにわかりやすく説明すると、物体を吊るしてみてバランスが取れる点に重心があります。
図のように二方向から吊るした時、その中心線の交差する所が重心です。
そして基本的に重心の位置はよほど態勢を大きく変えない限り大きくは変化しません。
ちなみに英語で言うとCenter of Gravity 重力の中心という使われ方をしています。
が、そんなややこしいことはどうでもいいのです。
科学的に正しい重心などというものは、説明した通りまったく面白くない単なる点でしかありません。
いつ誰が言い始めたのかは知ったこっちゃありませんが、整体やスポーツ、武道や武術、様々な分野で新たなる科学とは関係のないファンタスティックな『重心』の使い方が発明されました。
以下に例をあげてみましょう。
例
人間の頭、胴体、下半身にはそれぞれ個別に重心があり、それをうまく揃えて動かすことで安定した動作ができます。
重心がひとつの物体にひとつしかないという科学的常識を無視すれば、アラ不思議!
このように魅力的な説明ができるようになります。何かよくわからないけど科学的なテクニックのように聞こえます。
重心のことをよくわかっていない人は「ほう、なるほど!」と思ってくれることでしょう。
実は単に姿勢を正して動けという当たり前のことをいっているだけなのですが、何やらより理論的な説明に聞こえるはずです。
例
人間の頭には体重の10%ほどの重さがあるります。これはボーリングの玉と同じくらいの重さです。
この頭にある重心をうまく動かす方法がわかればダイナミックな動きを引き出すことができます。
こちらも頭を大きく動かすとダイナミックな動きができます、という説明ですが、重心という言葉を使うことでなにやらコツのある技術っぽく説明することができます。
このように科学的な事実(頭は体重の10%くらい)と魔法の言葉『重心』を組み合わせて使うことにより、重心に魔術的な意味合いを持たせることができるのです。
『重心』を理解できない人にはわからないけれど、『重心』さえ理解できればたちまち変われるような印象を与えられます。
こうすることで、「私は重心をはじめとした人体の研究をしっかりやってますよ」というアピールを多くを語らずしてすることができます。
魔法の言葉「重心移動」
さらに近年産みだされた魔法の言葉があります。
それが『重心移動』です。
イメージとしてはホイミに対するベホイミ、いわば科学を超越した謎重心の上位互換です。
科学的には重心移動というのは、身体を前傾させたりすることで重心の位置を移動させて動き出すという、人が動くために必要な当たり前の動作です。
姿勢を変えたり、手を挙げただけでも身体重心の位置は微妙に移動します。
呼吸しているだけでも微妙に移動しています。大きくは移動しませんが、人が動くたびに移動する点が重心であり、重心の移動です。
もちろん、そんなことはどうでもいいことです。
重心移動などというものは正確な意味ではただ動いているという意味とほぼ同じですが、
呪文としての重心移動を使うことで逆に移動を特別なものにすることができます。
例
頭の重心から移動させ、胸、腰、下半身と徐々にそれぞれの部位にある重心を移動させることで滑らかな重心移動が可能となる。
重心と言うのは物体にひとつしかありませんが、このように説明をすると身体をうまく動かすと素晴しい動きができるかのような印象を与えることができます。
また重心移動とは単に移動していることに過ぎないので、「正しい」「なめらか」などの枕言葉をつけることによって、さらに彩りを加えることが可能です。
例
瞬時に正しい重心移動を行うことによって、予備動作を出さずに動き出すことができる。
ここでポイントとなるのは正しい重心移動とは何なのか?滑らかな重心移動とは何なのかということは一切説明する必要がない点です。
重心移動という言葉のおかげで、重心移動が正しいという印象を与えることができる上に、内容に関してはまったく説明する必要がありません。
実際に面と向かって指導する場合であっても、なんでもいいので適当な動く練習を『重心移動の練習』ということにできます。
この練習をすれば『正しい重心移動』が身に着く!という風に説明すれば実際には普通の練習であっても理論的な感じを出すことができます。
また実際に重心移動じたいはしているので、ウソはついていないと言い張ることもできます!
新たな呪文を生み出すことも可能
さて、科学的には重心というのはだいたい物体の真ん中あたりに位置します。
成人男性なら直立している時は地面からおよそ56%くらいのところにあると言われています。
ドーナツややじろべえなど、明らかに物体として安定しないものだけは物体の外側に重心が位置することがあります。
当然といえば当然ですが、そんなことはどうでもいいことです。
大事なのは重心というワードを使って科学的な印象を与えることです。
内容が科学的に正しいかどうかはこの際まったく関係ありません。
そんな禁断の技術が『重心を乗せる』に代表される魅惑の重心操作ワードです。
体重を相手に乗せるなんぞというありきたりな表現では、この競争の激しい現代社会では他の同業者との差別化はできません。
そういう時に良いのが体重という言葉の代わりに重心を使ってしまうという非科学的なテクニックです。
すでに書いた通り重心というのは残念ながらそうそう大きく動いてはくれません。
人体ならバク転をしたりして相当不自然な格好をしてやっとちょっと外に出る程度です。
こんなつまらないものをバカ正直に説明してもまったく面白くありませんね。
動いているものを動いていると言ったところで、なんの感動もありません。そんなことを言うやつはアホです。
なのでここでは重心を体重のように使ってしまいます。
例
・自分の重心を相手に乗せてしまうことで相手の重心を倒す。
・かかとに重心を乗せて正しい姿勢になる。
・自分の手に全身の重心を乗せて相手を凄いパワーで押す。
もはや本来の重心からは遥か遠くかけ離れてしまっていますが、そんなことは関係ありません。
重心という言葉を知らない人への効果は絶大です。
「自分のよく知らない重心について、こんなに理解しているなんて凄い!」という印象を与えられる可能性すら秘めています。
またこの応用として『ホニャララ重心』という表現方法があります。
例
右利きの人は右側を主に使って動く為、右ヒザ重心の人が多くなります。このバランスの乱れがヒザなどの故障に繋がります。
これらの例はすべて真っ赤なウソですが、ホニャララ重心と言うと、まるでそんな専門用語が存在するかのような印象を与えられます。
実際、このホニャララ重心というのは色んな人が色んな主張をしており正解など存在しません。
そもそも重心が物体の端に移動することなどないので、前提からして間違っているのです。
間違っていることを高らかに宣言して、あまつさえ専門用語風にしてしまうというのはある意味では無敵と言えるのではないでしょうか?
これはもう死んだまま動いているゾンビのようなものです。最悪の場合、頭を破壊しても動き続ける可能性があります。
小賢しいやつへの対処法
もちろん、中には『重心』についての正しい知識を持っている人間もわずかですが存在しています。
最後にこういう小賢しいやつが現れた時の対処法を紹介します。
対処法1:数の暴力で黙らせる
人というのは同じような意見を言う人が周囲に多ければ多いほど、その意見が正しいと思ってしまう生き物です。
幸いなことに重心業界には様々な分野で様々な重心を主張している仲間たちがいます。
こうした意見を見せれば「あれ?もしかしておれが間違ってたのか?」という印象を与えることができるでしょう。
また、すでにあなたの重心を信じているメンバーを利用するのも手です。
少数派になりたい人はそうはいないので、あなたの主張が多数派だと信じ込ませましょう。
対処法2:合成重心のことだとシラを切る
こちらは少し専門的なテクニックになります。
重心が物体にはひとつしかないと指摘された時などは、この合成重心の説明を使うというテクニックがあります。
合成重心というのは人体などの複雑な形をしたものの重心を割り出す時に使う方法です。
はじめに頭、胴体、腕、足などのパーツをそれぞれ別の物として重心を割り出してから、それらを合成していって真の重心の位置を見つけるという方法です。
もちろん合成重心というのは最終的にひとつの身体重心の位置を割り出す為に一時的に設定するものです。
ですが相手の重心の知識が中途半端ならこれで切り抜けることができます。
とりあえず重心が複数あるというのは合成重心の理屈に基づいているのだということで誤魔化しましょう。
むしろ開き直って「それくらいわかると思っていた」ぐらいのことを言ったらいいんじゃないでしょうか?
対処法3:科学的な意味の重心ではないと主張する
日本語と言うのは便利なもので、重心という言葉は科学的な意味ではなく、重点とか中心といった言葉と同じような意味で使うこともあります。
「私が言っていたのは、右側に重点を置くという意味だよ」
みたいな感じで別の意味の重心だったということにして誤魔化しましょう。
あるいは、プロイセンの軍事学者カール・フィリープ・ゴットリープ・フォン・クラウゼヴィッツが主張した戦場における力と運動の中心という意味での「重心」であるとする詭弁を使う手もあります。
彼の名前を滑らかに詠唱できるようにしておくとポイントが高くなります。
とにかく重心とは科学的な重心のことではなく、なんらかの概念、まったく別の意味だと言い張りましょう。
対処法4:追放する
重心について確固たる科学知識を持っている相手は、もはや説得が不可能ということもあります。
その場合は追放しましょう。
もうそれしかありません。
相手もまったく科学的ではない重心について説明する人なんかとは関わりたくないと思っているはずです。
それを利用してお引き取り願いましょう。
こういう小賢しい人は、いちいち反論してきたりして、なかなかいうことを聞いてくれないものです。
他のメンバーを疑心暗鬼にさせてしまうかも知れないので、やはりさっさと追放するべきでしょう。
対処法5:重心を卒業する
そんなこと言ってたっけ?
みたいな感じで重心のことを人々の記憶からフェードアウトさせてしまうというのもひとつの手です。
徐々に重心を使った説明をする比率を減らしていきましょう。
そもそも、謎の重心ワードを使ってしまうのは恐らくは自分でも理屈がハッキリわかっていないからです。
ちゃんと分析してわかってしまえば、もはや謎重心に頼る必要はありません。
正しくない重心を使った説明というのは、「素晴らしい絵」「超絶美人の女」「天才的な技術」という言葉みたいな感じで、
想像させることは簡単でも、実現するのは難しい言葉です。
逆にこれが実現できたなら、もはや想像させる必要はありません。
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以上が謎重心を使った非科学的説明手法のテクニックということになります。
おわりに
このテクニックをマジで使いたいという奇特な方は完全なる自己責任でお願い致します。
でも、けっこう使ってる人はいるので案外イケてしまう可能性があるのが恐ろしいところです。
別に使っている人が100%悪意でやっているとも思いません。中にはイメージさせやすいみたいな考えの人もいるかも知れません。
ですが将来的に教え子がエセ科学を信じているなどというレッテルを貼られたり、自分自身が嘘つき呼ばわりされる可能性のある手法なので、なかなかリスキーだと思います。
もし自分の理論に自信がある場合は、こうした謎重心の説明をしないように注意することを激しくお勧めしときます。
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参考文献
重心について:重心(Wikipedia)
合成重心について:身体重心の求め方について(北海道科学大学)
いつも興味深く読ませてもらってます。
今回の件重心の話ですが、頭の重心とか上半身の重心
ということは普通にありますよ。
たとえば、椅子から立ち上がる人の重心移動を
考えるとき、全身の重心を考える時もありますし
上半身のみの重心を考える時もあります。
おしりが座面から離れるまでの動きを見ると
下半身はあまり動かず、上半身が主に動くので
上半身の重心移動を考えた方がわかりやすいのです。
これは非科学的というわけではないです。
上半身の重心ときちんと明記していれば
いいわけですよね。
ただ、私も武道の解説等で、
これはおかしいんじゃないかな?
と思うことは多々あります。
たとえば、全身の体重を手に集めます…とか。
こういうのは科学的知識が不十分なためだと思います。
それでは、次回の記事も期待して待ってますので
よろしくお願いします。
武道リサーチ始まって以来の初コメントありがとうございます。
誰もちゃんと読んでくれてないのかと思ってました。
ご質問の件ですが、
上半身の重心「だけ」を動かしても、おしりを浮かせて立ち上がることはできないので、
おっしゃる通り前提となる重心のことをちゃんと説明しておく必要がありますね。
こうした前提の説明なしに、
「上半身の重心を動かせば椅子から立ち上がれる」
と説明してしまうと科学的な説明とは言えなくなってしまう。
という意味で非科学的とさせて頂きました。
わかりやすい説明というのはとても大事ですが、
重心に関しては、正確にわかりやすく説明しようとするほどややこしくなる、
ということが今回ブログを書いてみてたっぷりと理解できました。
スポーツや武道の世界ではいちいち重心の前提から説明するくらいなら、
「体重移動」や「重み」等の言葉を使った方が話が早そうです。
重心というのはやはりそういった情報が厳密に必要な専門分野の方が使うべきものなのだと思います。
今後とも疑問点・アドバイス等ありましたら、遠慮なくコメントしてください。
よろしくお願いします。
初めまして。重心マジック(笑)について、興味深く拝見させて頂きました。https://youtu.be/Jcbcc77NM5g
こちらの動画で重心の移動という表現が使われていますが、この場合の重心という表現は正しい、という理解で宜しいですかね?姿勢を変えただけで重心が腹から背中側に移動するのはこちらの文章を読んだ後だと嘘っぽく見えますが笑
また、この動画に類似したいわゆる「大男に押されてもびくともしない小柄な達人先生」なんかはこのテクニックを使用しているのでしょうか。それとも、何か別の理由があるのでしょうか。
コメントありがとうございます。
なかなか面白い動画ですね。重心の位置についてわかりやすく解説してあると思います。
ビルダーの人たちもちゃんと女性に近づいたり引き寄せたりすれば持ちあげられるので、単に重心位置を移動させているだけでなく、
最初に相手が持ちやすいように前傾ぎみになって持たせてあげることで、二回目も同じような持たせ方をするといったテクニックもあるように思えます。
要するに物体の形が最初と変わっているのに、それを悟らせないようにしてるわけです。
この記事でも書いている通り、姿勢を変えれば重心の位置は変わります。
それは何ら特別な移動ではないのですが、それを超えた行き過ぎた重心移動という言葉には注意して欲しいと思っています。
ちなみに「大男に押されてもびくともしない達人」みたいなのは、
非常にざっくりと説明すると相手が地面から生えている斜めの棒をどんなに押しても押せないように、相手にはわからないように相手を支えているような感じです。
相手の重心よりも自分の重心を低くするといった説明が可能かもしれません。
何かを持ち上げたり押して動かしたりするためには、その物体を一部でも持ち上げる必要があります。
よかったらフザけた記事で恐縮ですがこちらもご参照ください。
https://budoresearch.com/japanese/practice-jp/budo-style-theory-of-love-jp.html