武道武術の極意?客観的に物事を見る方法

fukan

マンガなんかでもある表現ですが、

戦ってる時に相手と自分を上から見下ろしてるみたいに俯瞰(ふかん)した状態で見られたら最高だよね!という類の話があります。

TPS系のゲームとか、戦略シュミレーション系のゲーム画面もあるイミでは俯瞰と言えます。

将棋やチェスなんかも言ってしまえば俯瞰です。戦略的な視点でみるためには俯瞰視点というのはかなり大事な視点でしょう。

そんな感じで自分から一歩離れた視点から戦いを見るのは武道武術でも極意!みたいな感じに語られたりしますが、

それって実際のところ難しいんだろうか?という疑問をちょっと考えてみたいと思います。

     目次     
ソロモン王でも無理でした
物理的には無理なのか?
俯瞰するための稽古

ソロモン王でも無理でした

カッコ良く言えば俯瞰、ゲーム風に言うなら見下ろし視点っていうのは、まずは自分のことがちゃんと見えてるかどうかってことに尽きると思います。

だって相手は普通に見えてるわけですし。

このことが教えてくれることは人間ってのは自分を客観的に見るのがとんでもなく苦手だということです。

どんくらい苦手かというと神に知恵を授けられたとされている旧約聖書のソロモン王ですらできなかったと言われています。

いやソロモン王って誰やねんという人のために、ソロモン王がどんだけ賢いかを伝える素敵なエピソードがあります。

日本でも有名な大岡裁きの元ネタで、ふたりの女がひとりの子供をとりあってお互いが親だと主張してる状況で、

「なら引き裂いて半分こしたらいいじゃん」

と発言し、本当の親が「それなら子供を手放しますぅ!」と青ざめたところで「こっちが本物だな」とドヤ顔で指摘したというエピソードです。

うーん、素晴らしい神の知恵。

soromon

ソロモン王はその知恵でイスラエルという国を治め、繁栄を築いたのですが身内の部族を優遇したことによって、死後に大分裂が起こってしまいます。

そんな彼にちなんで、すげー賢い人なのに自分の関わった問題だけはうまく解決できないことをソロモン王のパラドックスと呼ぶそうです。

この問題の解決策としてウォータールー大学という ポッと出のくせに カナダでは超優秀な大学の教授イゴール・グロスマンが論文を出しています。(1)

ここで行われた実験では、若い人だろうが老人だろうが自分がトラブルに直面している状況を想像すると明らかにパフォーマンスが低下するということがわかっています。

これはトラブルの当事者になってしまうことで、自分の感情とか、人間関係とか、その場の雰囲気とかで冷静な判断ができなくなってしまっているからです。

これに対してイゴール・グロスマンが提案する対策は超シンプルです。

他人がトラブルに直面してると思おう!

実験参加者も自分じゃなくて他人がトラブルに直面してるのを想像するとトラブルに適切な解決策を提案できるようになったそうです。

心理学の分野ではこの手の話はけっこうあります。

トラウマを消す方法として嫌いな人に言いたい事を手紙にしたためて、相手になったつもりで自分への謝罪の手紙を書くと効果が絶大だったり、

失敗を繰り返さない方法として、何か失敗したとき他人になったつもりで自分に何かアドバイスを文章に書いてやると効果的だったり、

他人の視点と客観的な意見というのは、自分を変える上で大きな効果があることがわかっています。

自分の考えを文章にするだけでも、認識がより深まりまるそうです。

そんなわけで何が言いたいのかというと、客観的に物事を見るというの難しいのですがちょっとした発想の転換で可能になるってことです。

物理的には無理なのか?

心理的には客観的に見るってことが可能なのはわかってもらえたかと思いますが、じゃあ物理的にはどうなの?というお話です。

武道というものが目指すのは陰陽の統合であり、心理的に可能なものは物理的にも可能ってことだと思います。

とはいえ、人間が自分の目を通して見た視点では状況を俯瞰してみるなんてことは不可能です。

将来的にはドローンのカメラ映像を自分の脳内に送り込む、みたいなイカれたこともできちゃうのかも知れませんけど。

ただ、こんなことをしなくても実は人間の目は俯瞰を使っています。

例えばなんでもいいので四角いテーブルを思い浮かべてください。あなたは普段それを斜めから見ているので、図形としては四角ではありませんね。

でも、そのテーブルを上から見たら四角だと認識しています。

例えはじめてみたテーブルであっても上から見たらどんな形か想像できるでしょう。

これは一種の思い込みなのですが、想像力によって人間は立体を認識する力があります。

逆にこれを逆手に取ると錯視が起こるわけです。

trickart1

これはシェパードの錯視と呼ばれるもので、二つの四角形と絵は実際には同じ大きさですが、立体的に見えることで左の図形と絵は小さく、右の図形と絵は大きく見えます。(2)

trickart2

立体から抜け出した絵と図形は同じ大きさですが、立体の中にあるとまったく違う大きさに見えます。

なぜこんなことが起こるのかというと、人には目玉がふたつあるからです。(3)

目を交互につぶるとわかりますが、わたしたちが普段見ているものというのは右目と左目の画像を合成したものです。

右目と左目だけで見た時は、映像は微妙にズレています。

このズレを利用することで、脳は見ているものがどのような立体なのかを想像して処理しているのです。

錯視が起こるのは逆に立体風な絵を見せることで脳が処理をした映像だと思わせているからです。

映画の3Dメガネなんかは左右のレンズを利用して右目と左目が見ているものを変えることによって、飛び出しているかのように見せています。

何がいいたいのかというと目に限らず、ふたつの方向からひとつのものを観ることによってそれを立体的に想像することができるということです。

全盲の人でもエコーローケーションと言って、自分が発した音の反射で物の位置を把握できる人がいます。

また、バスケやアメフトなどの集団で激しく動くスポーツでも色んな人の位置を把握しておく必要があります。

心理的に客観的に自分と相手の状況を見ることで、冷静な判断ができるように、

物理的にも自分の状態を把握したうえで相手を見ることができれば、状況を俯瞰してみることができるということです。

必要なのはふたつの異なる地点からの観察ということになります。

もちろん常に俯瞰で見るなんてことは不可能でしょうけれど、状況が限定されていれば可能だという話です。

俯瞰するための稽古

ほぼ結論には達してるのですが、要するに俯瞰して客観的に物事を見るには、自分と相手のことを把握しておく必要があるということです。

じゃあ実際どうすんのよという話ですが、武道であればそれは普段通りの稽古をすることだと思います。

形稽古には色んな稽古の可能性があります。

人というのは、実は訓練していないと手を地面と水平にあげることすらできません。

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訓練しないと実際の身体の状態とイメージがあわないのです。

だからタンスの角に小指をぶつけて転げ回るということが起こるのです。

こうした稽古のためにあるのが空手なんかの一人型の稽古だと思います。まあ別に一人型じゃなくても、バレェみたいに鏡を見ながら自分の状態を意識できたらいいとは思いますが。

自分の身体の位置が自分の想定とズレてないかを確かめられます。

そして、自分と相手の位置関係をきちんと把握するためにあるのが、二人で行う形稽古だと思います。

合気道なんかで形稽古をする場合、自分がどう動くかは当然ながら、相手がどうなっているかを把握することも重要です。

そして、相手の状態を把握するためには自分のことだけに拘っていてはいけません。

物事を俯瞰で見るというのは、単純に上から見た視点という意味がありますが、

実際の俯瞰というのは立体的に把握するということだと思います。

そして、そのためには相手の状態や情報もきちんと把握していなければなりません。

ふたりで行う形稽古では自分が力を入れ過ぎると相手のことがわからなくなります。

もちろん、力があれば力づくで動かすこともできますが、相手の情報を取り入れて動ければそれほど力を入れる必要がなくなります。

ふたりで行う形稽古でも、稽古するべきことは色々あると思いますが、その中のひとつが自分と相手の把握だと思います。

目がやっているように、ふたつの視点から状況を見るように、自分と相手という二点を把握することで、自他を俯瞰した状態で見ることができるようになるというわけです。

心理的にも相手の心を読むのに一番適した状態は、冷静な状態だと言われています。

当たり前のことですが自分から余計なことをすれば、相手の情報を遮断してしまいます。ソナーのように探りを入れつつも反応を待つみたいな感じでしょうか。

そういった状態を目指しながら、さらに広い視点を見つけていくというのが武道武術でひとつの極意ともされている俯瞰の状態なのではないかと思います。

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参考文献

(1)ソロモンのパラドックスを探る:若年成人及び年長者の賢明な推論のためには自己乖離で自他の非対称性を排除する(英語論文)

(2)錯視のカタログ(web site)

(3)松原隆彦著『文系でもよくわかる世界の仕組みを物理学で知る』

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