アホを騙す情報商材ビジネスを通して武道の『型』について適当に考えてみた
武道に限った話じゃありませんが、世の中には「型」というものがあります。ノウハウとかフレームワークとかマニュアルとか色々と言い方に違いはありますが要するに「型」ってことじゃないですか?
そんなわけで、よりにもよってあのクッソ怪しいビジネスである情報商材の「型」を使って武道の「型」について考えていこうというのが今回の試みです。
武道やら武術の世界では「型」は軽視されがちだったりするので、「型」って何のためにあるのかってことをちょっと確認してみましょう。
目次
型を守ることの意味
詐欺なんかを始めとする人を騙すタイプの手法には基本的に「型」が作られています。何故なら自分でやるよりアホにやらせた方が捕まるリスクが減るからです。
「情報商材」系のビジネスも同じような理由から「型」がつくられてます。
ちなみに情報商材って何かっていうと『独立行政法人国民生活センター』では次のように定義されています。
情報商材とは、インターネットの通信販売等で、副業、投資やギャンブル等で高額収入を得るためのノウハウ等と称して販売されている情報のことです。情報商材はPDF形式などの電子媒体で取引されることが多く、パソコンやスマートフォン等を使ってダウンロードや閲覧をすることができます。事業者によっては、動画やメールマガジン、アプリケーションで配信したり、冊子やDVD等に加工して契約者に送付する場合もあります。
情報商材そのものだけでなく、情報商材をきっかけに高額なコンサルティングやビジネスセミナー、ソフトウエア等を契約させられるケースもあり、契約書にもアフィリエイト、ビジネスサポート、コンサルティング、業務委託等の名称が用いられていることがあります。
参考:国民生活センター2018年8月2日簡単に高額収入を得られるという副業や投資の儲け話に注意!-インターネット等で取引される情報商材のトラブルが急増-
基本的に副業でウハウハだの、毛が生えただの、恋人ができただの、痩せただの、ギャンブルで必勝だのというノウハウをネット上で売ってるやつ全般ですな。
武道武術の世界にもはるか昔に効率的な上達法みたいな商材を見かけたことがあります。とはいえすべてが詐欺とか嘘というわけではないのですが、個人的にはちゃんとした商品ならわざわざ情報商材のスタイルで販売する必要はないと思います。
インターネットが普及しだした当初は情報が少ない事もあって、この手の悪徳商法が猛威をふるっておりまして、こんな感じのダメ情報が入ったぶ厚い本とかPDFとかが売られていました。
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パチンコ必勝法⇒勝つまでやれ!
女性とイチャイチャする方法⇒風俗に行け!
これは第二次大戦後に流行ったという見世物小屋で「オオイタチ」が見れますよと言われて金を払って覗いてみたらおおきな板に「チ」って書いてあったみたいなしょーもなさを感じます。
そんな感じだったのですが、「ネットビジネス大百科」という商材が登場したあたりで、その手口に変化が始まりました。
この商品は価格が1万円という(情報商材の中では)比較的良心的な値段であり、しかもちゃんと中身があるらしい!(※詳細は知りません)というものでした。
さらにこいつは商品を紹介して販売した人に8割ぐらい利益還元してたので、いわゆるバカ売れという感じで大ヒットを飛ばしました。一個売れば8千円でしかも中身もあるので他の情報商材より圧倒的に宣伝しやすいとくれば、売れるのは必然です。
このネットビジネス大百科の商品紹介ページは今でも情報商材のお手本のような巧みな文章が残されています。ただし、くそ長いですが。
この商品の紹介文章がいわゆる情報商材の「型」みたいなもんです。ひたすら長文で書かれてて、読んだ人の心をかき回すことで判断能力を低下させて買わせるような仕組みになってます。
簡単な例をあげるとこんな感じです。だいたいの情報商材がこの型を使っています。
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これをひたすら長々と書きながら要所要所に購入ボタンみたいなのが設置してあるというのもポイントです。アホらしいかも知れませんが、この書き方は実はめちゃくちゃ良くできてるのです。
心理学者ロバート・チャルディーニは人を動かす営業テクニックを実際に体験しながら6つの武器として分類しました。これは人の習性をうまく利用しており、簡単には回避できないテクニックだとされています。
6つの代表的な影響力の武器
・返報性(人は先に何かを貰ってしまうとお返しをしたくなる)
・希少性(人は限定品とかここだけの話とかいう希少なものに弱い)
・権威(人は肩書や実績があると中身に関係なく信用しやすい)
・一貫性(人は自分の意思を表明してしまうと一貫性を保とうとしてしまう)
・好意(人は相手に共通点があると好意を抱きやすくなる)
・社会的証明(人は周囲の人々の行動に影響されてあわせようとしてしまう)
これを参考にもう一度先ほどの文章を見てみましょう。
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(販売者のダメエピソードで共感させて、さらにあなたにも簡単にできる、自由になれるといったいい情報を提示して好意を持たせる)
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(先に割引することで返報性を起こさせる、さらに期間を区切ることで希少性を持たせる)
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(利用者の声は社会的証明、証拠としての札束や金額に関してはお金のことを考えている時人のIQは低下するという研究あり。簡単になれる代表取締役社長とか偉そうで意味の無い資格の保持者とかいう肩書の人が絶賛することで簡単に権威を持たせることができます)
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(満員電車や辛い仕事、不自由なイメージと自由を対比させてあなたは自由になりたいという一貫性を持つように仕向ける、社会を知らない大学生や会社に不満がある社員に刺さる)
とまぁ、こんな具合で営業における有効なテクニックが吐きそうなほどてんこ盛りなのです。ジュースなどで過剰な甘味をぶち込んでおけばデブは寄って来るみたいなやつの文章バージョンですね。
しかしながら、どんなに心理学的な知識がなくてもこの文章の「型」となる書き方さえ守ってれば、一定のレベルの人間を簡単に操ることができるというわけです。これが「型」の恐ろしさです。
こんな感じで「型」というのは無知な初心者であっても、それなりの成果を出すことができるようになっています。型に嵌まった状況であれば、簡単に相手よりも優位に立てる行動を記録したものが「型」なのです。
逆に言えば型をちゃんと理解している側からすると、あまりにもあからさま過ぎたり、必要以上に過剰だったりするということになります。
情報商材の「型」も演出過剰な部分があるので、見る人が見れば簡単に信用しちゃダメなやつだということがわかってしまいます。単純である反面、繊細さに欠けるので加減も何もあったもんじゃないということになるわけです。
このあたりが型を守ることの利点と難点といった感じでしょうか。もちろん慣れてくればより自然な使い方もできるわけですが、情報商材の型なんかはかなり初心者に特化していると思われます。
型を破ることの意味
そんな感じで型ってのはわからない人向けのお手本みたいな感じなんですが、だからといって初心者以外には何の役にも立たないってわけでもありません。
初心者から脱皮する為には型を「破る」必要があるからです。固まりきった枠組みを変えるためのブレイクスルーが型を「破る」ということです。そのためには型の存在が欠かせません。「型があるから型破り、型がなければ形無し」という有名な言葉もあるくらいです。
型とはお約束みたいなものなので、そもそもお約束がなかったら破るもなにもないのです。スポーツなんかでもルールを逆手に取った手法なんかができたりしますよね。それが「型破り」です。
先ほど紹介した「ネットビジネス大百科」も、こうした情報商材の型を破ったタイプの商品でした。一見すると内容もちゃんとしてるし、多くの人に利益をもたらしたわけですが、制作者はただ単に自分の利益を度外視して単なる義侠心から商品を売ったわけではありませんでした。
この商品には「裏」の目的は情報商材を買った人のリスト化でした。それなりに良い商品を安く売って大量の客をつければ、その客とは信頼関係が出来ているので、今までよりも簡単に後で利益率の高い商品を販売できるわけです。
このリスト化こそが表に対する裏のように、情報商材の型を破るために必要な新たな型でした。これさえあれば一度ではなく、二度三度と情報商材に興味がある客にコストをかけずに営業をかけることができるわけです。
統計などのデータで物事の実体を分析してきた経済学者のスティーブン・レヴィットの「0ベース思考」によれば、よくある詐欺メールが何故あからさまに怪しい内容なのか?といった疑問への答えは、その目的が騙されやすいアホのリストをつくることだからなのだそうです。
こうしたタイプの詐欺は賢いやつとやりとりすると無駄にコストがかかってしまいます。何十万人分ものリストから選りすぐりのアホを選んで詐欺をしかけた方が何かと効率がいいのです。
最近では前澤元社長がTwitterでフォローリツイートした人に現金プレゼントをしてフォロワーを増やした結果、それをマネするアカウントが出てきていますが、こうしたアカウントのほとんどは金に目がくらんで行動してしまうアホをリスト化する為にやっていると言われています。
ちなみに、そこから情報商材の販売に持って行くという手口もあるそうです。現金プレゼントに釣られるアホなら情報商材にも釣られるだろってことですね。
参考:追跡!謎の現金プレゼント
このように情報商材の「型」における守るべきものは基本となるセールス文章でしたが、同じ事でいつまでもやっていけるほど甘くはありません。そんなわけで裏としてあるのがリスト化なのです。
そして当たり前のことながら、このリスト化でいつまでもやっていられません。これはちょうど型のあり方についての良い例になっていると思います。どんなに革命的なことが起こってもやがてそれは普通になっちゃうのです。
リスト化も今ではわりとどの企業でもやっている普通のことです。自社の商品が好きな人には積極的に営業するのは当たり前であり、基本的な「型」になっているということです。情報商材ではその後、ネットワーク・ビジネス化という次なる型の破壊が行われました。
これはかの有名な秒速で1億円稼ぐ男と呼ばれた与沢翼が取り入れたものでもあります。簡単に言えばねずみ講やマルチ商法でお馴染みの手法です。その手口はこんな感じです。
5つのステップでわかる情報商材のネットワークビジネス化の手法!
STEP1.何かで適当に利益を出して、そのノウハウを情報商材にして販売する
STEP2.情報商材で利益が出たら、情報商材をメインにしてセミナーなどを開く
STEP3.集めた一番目の顧客に同じように利益が出た物事を情報商材化させて販売させ、売り上げは何らかの名目をつけて吸い上げる
STEP4.その顧客についた二番目の客にも同じことをやらせて、売り上げは何らかの名目をつけて吸い上げる
STEP5.以下、同じことをひたすら繰り返す
もちろん下の連中にも利益を与える必要があるので、下にいけばいくほど苦しくなる地獄のピラミッドが完成するわけです。そもそものピラミッドだってビール飲みたいやつにちょっと汗かいてもらうというホワイトな環境でつくられたと言われているのに、現代のピラミッドのなんと過酷なことでしょう。
参考:ピラミッドのために何万人も奴隷が働かされた、は大ウソ(キリンビール大学)
これは実際に自分の知人が紹介されてた事例ですが、ホームページをつくって客を集めてセミナーを販売するという手法で、なんとびっくり売り上げの70%は上層部へと持って行かれるというものでした。
おまえは一体ピラミッドの何段目にいるんだ?という話です。
余計な話は置いておくとして、「型」における「型破り」の段階というのは、実は頻繁に行われているわけです。そうやって変化して常識になって再び型になったものを我々は見ているのです。
だから昔からまったく変化していない純粋な「型」というのはないようにも思えます。型によっては「表」「裏」としてふたつの要素がすでに取り入れられているものもあります。
武道では昔の型が現代まで残っているのは型そのものが変化を繰り返してきたことの証とも言えるのかも知れません。
型から離れることの意味
さて、ここまでは情報商材について見ようによってはアホには売れるという使い道があるように思えるかも知れませんが、このやり方には限界があります。そのことを踏まえつつ型から離れるということを考えたいと思います。
武道などの道と名のつくものには、守破離と呼ばれる型稽古の段階についての考え方があります。「守」とは型を忠実に守ること、「破」とは型の中から良い所を残して変えること、「離」とは型から離れて独立することだと言われています。
与沢翼の登場で一時代を築いたほど目立った情報商材ですが、結果的に迎えた結末というのはリーマンショックの原因となったサブプライムローンが迎えた結末とよく似ています。
サブプライムローンってのはプライム(優良)なローンのサブということで、普通のローンに通らない優良じゃないやつ向けのローンなのですが、そこに格付け会社があり得ない高い評価をしまくったことでアメリカどころか世界経済がゴッソリ崩れることになったのです。
情報商材ピラミッドの下の人々だって同じです。これで儲けられると信じこまされて金を払っても、コピーを繰り返した劣化劣化劣化劣化劣化コピーみたいな情報商材が金を生むはずがないのです。
大して価値のないリストを優良なリストだと思わせて販売することを繰り返したことで、自分たちが相手にババを掴ませてると思ってたら、気づいたらカードが全部ババになっていたのです。因果応報というやつですね。
要するに中身がスカスカなものをどんなに型にはめても形にはならないのです。
情報商材は基本的に社会経験のない学生とか、営業したりされたことのない人を狙ってつくられています。そういう人を狙うというのは、逆に言えばそういう人にしか通用しない程度のものということです。ただ現在でもそういう人に猛威を振るっていることも事実です。
武道の型にしても今日まで残っているということは、ある一定の意味があると思います。空手の一人型にしても演武などで新たな人気を得ています。これも一種の型破りではないでしょうか?
要するに型というのは常に破壊と創造を繰り返して残っているということであり、そこから学ぶべきなのは歴史の波に揉まれる中で何があり、変えてはいけない部分とはどこなのか? ということだと思います。
情報商材の文章の型が心理学的に正しい営業のテクニックをデカ盛しているということがわかれば、もうその型そのものを使う必要はないわけです。
きちんと型で稽古するべき根幹がわかれば、型から離れてもその根幹を使うことができるので、こういうことが守破離の「離」になるんじゃねーかなと思います。
離れるといっても、型を捨てるわけではなく、形にとらわれずに型を使えるということが「離」なのではないでしょうか。
守破離という考え方の元となったのは茶道で有名な千利休の和歌「規矩(きく)作法 守りつくして 破るとも 離るるとても 本を忘れるな」から来ていると言われています。本質的な部分だけを忘れなければ破っても離れても良いとも捉えられますね。
型というのは本質とは何か? ということを理解するために使うものであって、ただ型をはめていたら中身がなくて形にならないことや、逆に大きすぎて型にはまらないものだってでてくるでしょう。そこんところをよく考えながら稽古していきたいものです。
こんな感じで守破離していきたいですが、まだまだ型すらまともにできないマツリでした。まさか、中身が足りないのか?
ちなみに今回の情報商材に関しては「インターネットは簡単だ」とか言いながらYouTubeの登録者数が数十人な情報商材屋とか、「応募殺到の為、募集人数あと3人!」のまま一年くらい変化のない情報商材のサイトをニヤニヤ眺めながら酒を飲むというマツリくんの悪趣味から発想しているので、もしかしたら間違ってる部分もあるかも知れません。
そんな程度の知識で書いたので情報商材についてもっと詳しく知りたい人は普通に国民生活センターとか、あるいは弁護士とか、しかるべき所に聞いてみると良いでしょう。
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