草履で歩くだけ!?武道の歩き方・歩法の方法
今回は武道的な歩き方、いわゆる歩法についての稽古方法を解説します。
武道においてはかなり重要なポイントとなるのですが、残念ながらきちんと取り組む人は非常に少ない分野だと思います。
前回の記事で解説した通り、歩くことってのはそもそも人間にとってムチャクチャ健康にいいことです。
歩くことで心身ともに健康になった上に効率的かつ武道的な歩き方も身に着いたらめっちゃお得だと思いませんか?
そんなわけで、武道の歩法の解説をしていきます。
目次
・草履で歩く
・履物で修行する理由
1.なるべく上下しない
2.足が揃う瞬間をつくる
3.草履を基本とする
・日常を稽古にする
草履で歩く
結論からサッサと説明すると、とりあえず草履で歩けということになります。
草履というのはかつては日本人なら誰もが履いていた履物です。
日本に靴が普及しはじめたのは1890年代に西洋式の軍隊を導入しはじめてからで、
庶民が一般的に靴をはくようになったのは1950年代ということなので、5~60年前は草履がメインだったということになります。
多くの日本武術はもともと草履が当たり前だった頃に生まれています。
つまり日本の武道武術は草履がベースとなっているのです。
当たり前の話なのですが、草履と靴とではそもそも根本的に歩き方が違います。
靴で歩いているときというのは、簡単に言うと走っているのを遅くした状態です。
足のつま先側を使って蹴り上げながら歩いています。靴はこれをサポートするために踵が高くなっています。
草履の場合、踵はそれほど高くなっていません。また鼻緒がついているため蹴り上げるということもしません。
つま先に草履の鼻緒を引っかけて移動します。
靴と草履を履いた時の歩き方の大きな違いは次の通りです。
靴⇒出した足のつま先に体重をかける。
草履⇒足を出しても残っている足のかかとに体重をかけている。
草履での歩き方はこのように滑るように歩くので遅めの動きになりますが、その代わり雪道などでも安定して歩けます。
イメージとしてはホバー移動です。つまりジェットストリームアタックです。
あるいは戦車なんかのキャタピラーと考えてもいいかも知れません。
これは力の切れ目がない状態ってことです。
武道武術ではこうした靴式の歩き方よりも、草履式の安定を重視しています。
履物で修行する理由
草履で歩くことで武道武術的なメリットを考えた時、注意すべきなのは以下の三点です。
1.なるべく上下しない
2.足が揃う瞬間をつくる
3.草履を基本とする
1.なるべく上下しない
靴での歩き方をしていると地面を蹴り上げる時に体が浮いてしまいます。
それはいわゆる隙ができている状態ということになります。
そういうタイミングで相手に下から入り込まれるともうどうしようありません。
この隙をなくすという意味でも上下しないで移動するというのは大事なことです。
ちなみにすり足というと、地面に足をするように思うかも知れませんが、そういうわけではありません。
平坦な道ならすって歩いてもいいかも知れませんが、凹凸がある場所では足を浮かせます。
そういう意味では先ほども書いた通り地面と平行なホバー移動です。
大事なことは頭が上下しないように移動することです。
じゃあボクシングや格闘技のステップはどうなんだ?といった話が出て来ると思いますが、これは目的の違いだと言えると思います。
前回の記事にも書いた通り、武道武術のベースは武器です。
どうして武器を持ってステップしないのかは、実際に持ってやってみてもらえるとわかりやすいかも知れません。
簡単に言えば、ハンマーでクギを叩く時にステップするか?みたいな感じでしょうか。
2.足が揃う瞬間をつくる
特に空手の型などでよくみられる動きですが、古い武術は移動するときに一旦足を揃えてから動き出すようになっています。
アイススケートなどを想像してもらうとわかりやすいかも知れません。
足場がつるつるの時は、一旦足を揃えてから方向転換します。
これはバネが縮むように、タメをつくっている状態です。
このタメがあるからこそ、スケートなんかでも自分の進む方向を変えられるほどの力が出ます。
方向転換するときに手足の方向がバラバラだと統一した力を出すのは難しくなります。
足が揃っていれば沈み込むことができ、これは1とは逆に相手の下に入り込んだときに力を出せる状態ともいえるでしょう。
両足を揃えるというのは力を一点に集中し、方向性を揃えるということです。
もちろん足が揃っていなくても溜めをつくることはできます。
足は二本あるので一本でも同じことはできます。
ただし、足が揃ったときがどういう状態なのかをちゃんと理解していなければ同じような力は出せないでしょう。
靴なんかを履いてアスファルトの道を歩いていると、足を揃えたりはしません。
それは体が効率よく動いていなくても、地面の方が安定してくれているので必要がないからとも言えます。
3.草履を基本とする
靴ではできて草履ではできない動きというのがいくつかあります。
靴でできる動きというのは、つま先に体重を乗せて動いているからできる動きです。
例えば草履ではつま先立ちの蹴りをすることはできません。
蹴りは踵をつけたままになります。
靴のようにダイナミックに走ることもできません。
忍者のような走り方になります。
坂道を靴のようにまっすぐあがることも難しくなります。
ジグザグに移動しながらでないと草履が脱げてしまいます。
このように書くと草履が靴よりも不便で不自由に思えるかも知れません。
もちろん物事にはメリットとデメリットがあります。
では靴の利点を失ってでも得たい草履のメリットとは何なのか?
何故、こんな面倒までして草履的な動きを身に着ける必要があるのでしょうか?
答えは安定するからです。
すり足をするとブレが少なくなります。ブレが少ないということは狙いをつけやすいということです。
例えば銃なんかで誰かを狙うときに自分が上下左右にブレブレだと狙いは定まりません。
正確な狙いをするためにはまず自分が安定していなければならないというわけです。
これは客観的な視点に通じる話でもあります。
やはり自分の安定がないのに、相手を正確に把握することは難しいのです。
草履でのすり足に慣れて来ると、一般の人が普段どれほどピョコピョコと上下しながら歩いているのかがわかるようになってきます。
それがわかるということは、やはり自分が安定してきたからこそだと思います。
草履で日常を稽古にする
古来の武術流派は様々な方法ですり足を修業していました。
例えば・・・
相撲では土俵から足を離さないで行うすり足の稽古は基礎とされています。
横綱白鵬なんかも、他の力士と差ができたのはこうした伝統的な稽古を行ったからだと語っていたそうです。
弓道でも、弓を射る際の足の動きはすり足になっています。
一刀流の流派、北辰一刀流は豆まき稽古といって、道場に豆を撒いておいて踏まないようにすり足で刀を扱う稽古を行っています。
また剣と居合と杖を修業した中山博道(なかやま ひろみち)は剣の師匠からわざと下駄の鼻緒をゆるめて履かされていたと言います。
このように稽古の時にすり足を意識するのは当然のことでした。
そして、意識せずともできるようになるには草履を使うことがおススメです。
現代においては道場での稽古というのはそれほど長い時間はとれません。
例えば週1で1時間の稽古がスケジュールだとすると、1年間の稽古時間はたったの52時間です。
これはもし1日4時間稽古する人がいた場合、たったの13日で追い越される計算です。
もちろんこれは超単純かつ乱暴な計算なので、必ずしもこうなるとは言えませんが、
社会人などの稽古時間が限定される人は、どうしても稽古の時間を多くとることができません。
こういう時こそ靴の代わりに草履を使ったりして、日常的な状況を稽古にしてしまえばいいのです。
変えてしまえば部分的な稽古ではありますが、より長い時間を稽古とすることができます。
例えば草履にしても室内履き用の草履もあります。
家にいる間、これで生活していれば1日のうち数時間は草履の状態を維持できます。
これだけでも歩き方の稽古時間は飛躍的に伸ばすことができます。
もちろんだた履いているだけでは意味がありませんが、意識的にこうしたことをするだけで変えていくことが出来る部分が多くなります。
ちなみに、歩くことは科学的にもメリットがあるとされています。
つまり草履で歩くという稽古ができると、
安定して動く武道の稽古になり、ストレスを解消し健康を促進し、さらに瞑想的に集中して行うのなら集中力や問題解決能力も身についてしまう!
というハンパない効果が得られるということになってしまいます。
普段のなんでもない時であっても、ついでに歩きながらやると効果が出ます。
だから携帯を見ながらでも、テレビを見ながらでも、本を読みながらでもいいので歩くことが大切です。
歩くだけでこうした複合的な効果が得られるので、様々な面からプラスの効果があることは間違いないです。
ただ、草履であるくとガニ又気味になるというちょっとしたマイナス面もありますが・・・
そんなわけで、武道をやるなら歩こうぜ!
ということになります。
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